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デフレとインフレの現在―日本経済が直面する課題と展望

デフレとインフレ―経済の本質的な変動要因

デフレとインフレは、現代経済において不可避な現象であり、それぞれ異なる影響を社会・生活に及ぼしている。

デフレとは物価が持続的に下落する現象であり、逆にインフレは物価が持続的に上昇する現象を指す。

日本では1990年代後半から長期にわたりデフレが続き、経済成長の足かせとなってきた。

一方、現在の世界経済は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響やウクライナ危機、エネルギー価格の高騰によりインフレ傾向が強まっている。

この転換点に立つ今、デフレ・インフレというキーワードは日本経済にどのような影響を与えているのか、現実のデータや実在の人物、企業、事例をもとに掘り下げていく。

デフレの現在とその歴史的背景

長期デフレの日本経済

日本経済のデフレは、バブル経済崩壊後の1990年代から始まった。

1997年のアジア通貨危機や2008年のリーマンショックなど、外的要因も重なり、日本は慢性的なデフレに苦しんできた。

物価が下落することにより、企業の売上や収益が伸びず、賃金の抑制、消費の冷え込み、投資意欲の減退などの悪循環が続いた。

この状況は「失われた20年」と称され、日本経済の停滞要因の一つとして語られている。

実在する日銀総裁、黒田東彦氏の下で2013年にアベノミクスが開始され、2%のインフレ目標を掲げて金融緩和政策が大々的に実施された。

それにもかかわらず、2021年まで日銀のインフレ目標はほぼ達成できなかった現実がある。

日本のデフレ脱却に向けた取り組み

黒田総裁下の日銀は、異次元の金融緩和、マイナス金利政策、大規模資産買い入れを続け、流動性の供給を進めてきた。

2014年の消費増税で一時的に物価が上昇したものの、その後再び消費は冷え込み、デフレ圧力が強まった。

企業は価格転嫁が難しく、特に実在するユニクロ(ファーストリテイリング)は低価格戦略で消費者の支持を得ていたため、値上げへのハードルが高かった。

消費者マインドの「値上げ=悪」という根強い固定観念もデフレからの脱却を難しくした。

インフレの現在―転換点を迎える世界と日本

グローバルなインフレ圧力

現在、アメリカやヨーロッパをはじめ世界各国でインフレ傾向が強まっている。

その背景には新型コロナウイルスによるサプライチェーン寸断、ロシア・ウクライナ情勢の影響によるエネルギー価格の高騰、労働市場の逼迫など複数の要因が重なっている。

アメリカでは2022年に消費者物価指数(CPI)が前年同月比で9.1%(6月時点)という40年ぶりの高水準に達した。

連邦準備制度理事会(FRB)は3回にわたり大幅な利上げを実施し、景気後退(リセッション)のリスクが議論された。

日本経済にも及ぶインフレの波

日本でも2021年から2023年にかけて、エネルギーや原材料の世界的な価格上昇が国内物価に波及した。

とくに2022年以降、電気料金やガソリン代、食料品価格が相次いで値上がりし、総務省の調査によれば2023年4月の消費者物価指数(CPI)は前年同月比で4.2%上昇した。

日銀の新総裁・植田和男氏は、持続的かつ安定的なインフレ(物価上昇)が実現するかどうか慎重に見極めている。

ユニクロやイオンといった大手企業は、相次いで値上げを発表し、価格転嫁が進み始めている。

一方で、賃金上昇が物価上昇に追いついていない現実もあり、生活者からは「悪いインフレ」との評価が根強い。

デフレとインフレの現在―企業の戦略と消費者の行動

小売・外食産業の値上げラッシュ

2022年以降、日本の小売・外食チェーンは度重なる値上げを迫られている。

実在するマクドナルドジャパンは、主要商品である「ビッグマック」の価格を2022年から2度引き上げた。

また、キッコーマンや日清食品なども原材料・包装資材のコスト高騰を背景に値上げを発表。

スーパーのイオンは「低価格維持」を掲げながらも、一部商品の値上げを余儀なくされた。

このような状況下、消費者の行動も変化しており、普段利用するスーパーや外食チェーンを値引きセールや割引クーポンの提供状況によって選ぶケースが増えている。

家計・生活に与えるインフレの影響

物価上昇が続く一方で、賃金の伸びは限定的だ。

実在する経団連(日本経済団体連合会)が発表した2023年夏季賞与の平均妥結額は前年比2.9%増の94万5,472円。

2023年春闘ではトヨタ自動車や日立製作所が過去最高水準の賃上げを実施したものの、中小企業や非正規雇用では十分な賃上げが広がっていない。

年金生活者や子育て世帯は生活必需品価格の上昇に直面し、「家計防衛」が重要な課題となっている。

実際、総務省の調べでは、2022年11月の家計消費は前年同月比で1.2%減少した。

金融政策とデフレ・インフレの現状分析

日本銀行の政策スタンスの変化

2022年まで続いた大規模金融緩和政策は、デフレからの脱却を目指す中でインフレへの転換点となった。

2023年4月には黒田総裁が退任し、植田和男氏が新総裁に就任。

植田総裁は現状のインフレが賃金と連動する「良いインフレ」かどうかを慎重に見極める構えを見せている。

一方、アメリカFRBや欧州中央銀行(ECB)は急速な利上げを実施しており、日本との金利差拡大が為替市場に影響を与えている。

円安が進行することで、輸入インフレが日本経済にさらなる負担をもたらしている。

日本企業の経営戦略と対応

大手自動車メーカーのトヨタ自動車は、世界的な半導体不足や部品コスト高騰の中でも、原材料の調達ルート多様化や電動化戦略の加速によって収益力を維持している。

セブン&アイ・ホールディングスなど流通各社も、プライベートブランド商品の拡充や物流効率化でコスト増への対応を図っている。

スタートアップ企業では、「デフレ時代の固定観念」を打破し、価格転嫁を前提としたサブスクリプションモデルやインフレ下のマーケティング手法を積極的に採用する姿勢が見られる。

デフレ社会からインフレ社会へのシナリオと今後の展望

コロナ禍とウクライナ危機がもたらしたインフレへの転換

コロナショック以降、物流停滞や半導体不足が製造業を直撃し、輸入物価上昇を経て消費者物価が上昇してきた。

ウクライナ危機を契機に、穀物・エネルギー価格が高騰。

2023年時点で多くの専門家が「日本は本格的なインフレ経済へ突入するか否か」の岐路にいると分析している。

インフレと賃金上昇の連動が持続的成長の鍵

賃金が上昇し物価上昇とバランスが取れる状況であれば、「良いインフレ」が実現でき、経済の成長サイクルが生まれる。

ユニクロやトヨタ自動車のように積極的な賃上げ姿勢を取る企業が増えることが期待される。

ただし、人口減少や高齢化、労働力不足など、日本固有の構造的課題も無視できない。

まとめ―デフレ・インフレの現在を見据えた行動指針

デフレとインフレは、「現在」の日本経済に直結する重要なキーワードである。

実在する企業や日銀の政策、消費者行動の変化を丹念に追うことで、今後の動きが見えてくる。

デフレが長期化したことで染みついた価格据え置き志向や賃金抑制の発想を見直し、インフレ社会への“ソフトランディング”を図ることが重要だ。

日本経済が健全なインフレと持続的な成長を実現できるかどうかは、今まさに試されている。

キーワードであるデフレ、インフレ、そして現在というフレーズが指し示すように、日本経済は新たなステージへの大きな転換点に差し掛かっている。